アローの不可能性定理


というわけで、アローの不可能性定理をきちんと説明してみる。N人の人がいて、すくなくとも3つ以上の選択肢、a,b,c,d,...があるとする。それぞれの選択肢は、一つの社会状態に対応している。例えば、一人首相を選ばなければならないときには、a,b,c,d,...が候補者の集団だと考えればよい。あるいは、3つの政策X,Y,Zから二つ選ばなければいけないとしたら、(X,Y),(Y,Z),(Z,X)が選択肢になる。

それぞれの人は、選択肢に関する選好を持っている。選好ってのは、要するに好き嫌いのランキングのことで、ここでは簡単化のため、一人一人が全ての選択肢を好きな順に一列に並べることが出来るとする。これを次のような記号を使って示そう。

これは、iさんはbがaより好きで、aがdより好きで、dがcより好き……ということを意味している。

ここで、一人一人の選好を集計して、社会的選好をはじき出すルールを考える。つまり、一人一人が選択肢を好きな順に並べたときに、それに対応して選択肢の社会的な優先順位のリストを作るための決め事だ。これを簡潔に表すと、



ということ。fがルールを表す関数で、iのついていないは社会の選好を表す。抽象的に見えるかも知れないが、ちょっと考えてみれば、ほとんどの社会的な意思決定はこの枠組みから外れていないことがわかる。多数決で順位を決めるのは一つのルールだし、話し合って決めるのも一つのルール、市場の評価によるランク付けも一つのルールなら、占い師が全部決めるってのもありだ。要するに、なんでもありである。


しかしもちろん、どんなルールも同じように望ましいわけではない。そこで、望ましい社会的ルールが最低限満たしているべきだと思われる条件を列挙してみよう。

(UD)それぞれの個人の選好に制約は無い。つまり、どんなの組み合わせに関しても、fは社会的選好をはじき出さなくてはならないとする。

このルールをデザインする人は、それぞれの人の選好を良く知らないと考えればいいかもしれない。お次はいわゆるパレート公準

(P)全ての人がaよりbを好むなら、社会的選好もaをbより上位に置く。記号で書くと、

もちろん、これはaとbだけじゃなくて、全ての選択肢のペアについて成り立つ。次がちょっとややこしい。

(IIA)全員の選好を固定したときに、社会的選好がaをbより上位に置いたとする。次に、それぞれの人について、aとbとの間のランキングを保ったまま、他の選択肢に関するランキングを適当に入れ替える。その時、どのように他の選択肢のランキングをいじっても、fがはじき出す社会的選好は、aをbより上位に置くものとする。

最後に、「独裁者」がいないと仮定する。

(ND)ある特定の個人の選好と、社会的選好が、他の個人の選好に関わらず常に一致するということがない。つまり、

が全ての選好の組み合わせについてなりたつような個人iは社会に存在しないとする。

さて、この4つの条件は、どれもそこそこもっともらしい条件に見える。しかし実は、これら全てを満たすルール(関数f)は存在しないのである。


社会科学の大定理の一つであるアローの不可能性定理だが、証明はなんと日記一日分で事足りてしまう。証明は(多分)明日。