アローの不可能性定理その2

さて、約束どおり、日記一日分で証明してみる。*1


定理. (UD),(P),(IIA)を満たす社会的ルールfは、(ND)を満たさない。


証明.

1.選択肢aがすべての人のランキングの最下位にあるとする。すると、(P)により社会的選好においてもaは最下位にある。

2.1のような個人のランキングの組をひとつ固定する。そして、個人1から順に、選択肢aを最下位から最上位へと移していく。(他の選択肢の間のランキングは一定に保つ。)するとどこかで、選択肢aの社会的ランキングは最下位でなくなるはずである。ちょうど選択肢aの社会的ランキングが最下位でなくなるのがk人目であるとしよう。このとき、比較的簡単に、選択肢aの社会的ランキングは最上位になっていることを示すことができる。*2

3.次にa以外の適当な2つの選択肢x,yに関して、このk番目の個人が独裁者であることを示す。次のような選好の組を考える。(1)k番目の個人はという選好をもっており、(2)1~k-1人目のランキングの最上位にはaがあり、k+1~N人目のランキングの最下位にaがあるとする((UD)より、そのようなランキングの組みあわせはあり。)k番目の個人以外のxとyに関する選好は何でも良い。すると、aとxの関係だけ見ると、これは2でk人目のaの位置を動かす前とまったく同一なので、(IIA)より社会的選好はxをaより上位におく。次にaとyの関係だけ見ると、これは2でk人目のaの位置を動かした後とまったく同一なので、(IIA)より社会的選好はaをyより上位におく。よって、社会的選好はxをyより上位におく、つまりk番目の個人の選好どおりになる。ここでk番目の個人以外のxとyに関する選好は何でも良かったので、(IIA)より、 ならば、xとy以外のランキングがどのようであっても社会的選好も必ずとなることがわかる。もちろん以上の議論はyとxを入れ替えても成り立つ。

4.最後にaとその他の適当な選択肢xに関しても、このk番目の個人が独裁者であることを示す。aとx以外の適当な選択肢zをとる。*3zに関して、2と同じことをして、ちょうどk’人目でzが社会的選好の最上位に躍り出たとする。ここで、3よりk番目の個人はxとzに関して独裁的なはずなので、このk’はkと等しくないと矛盾をきたす。すると、3と同じ議論を繰り返すことで、k番目の個人はaとxに関しても独裁的であることが判る。

5.よって、k番目の個人はすべての選択肢のペアに関して独裁的、つまり(ND)は満たされない。

*1:この簡便な証明の元ねたは、90年代から出回っていたGeanakoplosの3つの証明のうちの一つ。確か最近ようやく出版されたはず。

*2:この証明はスキップしますが、簡単です。

*3:3個以上選択肢があることに注意!