「B型肝炎の両親からは男の子が生まれやすい」という説は間違い


3年前、「B型肝炎の両親からは男の子が生まれやすい」という論文を紹介したが、これはどうやら間違っていたらしい。というか正確には、「B型肝炎の両親からは男の子が生まれやすいことを使ってMissing Womenのかなりの部分が説明できる」、というのが間違っていたらしいのだ。著者のオスターも、自分の仮説は間違いだったということを事実上認めるノートを自分のサイトにポストしている。決定的だったのは、Lin and Luoh (2008)(AERに掲載予定)による台湾の大規模なデータを使った研究だ。3百万人の台湾人の母親のサンプルを調べたところ、B型肝炎の感染率と赤ちゃんの性比がほぼ無相関であることが確認された。


元論文では、様々なソースを考慮したうえでB型肝炎キャリアの両親から生まれる赤ちゃんの性比に1.5という数値をあてはめ、そしてそれによって説明できるMissing Womanの割合を逆算していたわけだが、この1.5という見積もりは明らかに過大評価だったわけだ。そもそもこの値が信頼性にかけていることは前から指摘されていた。いろいろ問題はあるのだが、まず実験からくる医学的な証拠に関していえば、サンプル数が少なすぎた。次にクロス・カントリーの証拠(B型肝炎のキャリアが多い国では男の子が多い)だが、そもそもクロス・カントリーが荒っぽすぎる話だということもあるが、アフリカなど逆の現象が観察されている(B型肝炎のキャリアが多いが男の子は特に多くない)国は無視されたということがある。オスターはこれをデータが整備されていなかったためとしているが、同様の問題はデータが使われた途上国にも該当する。


さらにこの仮説にとって弱点なのは、中国で男の子の赤ちゃんの比率がやたらと高くなるのはすでに女の子がいる家庭に集中している、という統計的事実の存在である。B型肝炎仮説に限らず、生理的なメカニズムのみではこの現象を解釈するのは難しい。少なくともこれに関しては、後天的な要因(選択的中絶など)が大きいのだろう。


この一件は、社会科学的なデータの解釈にはどれだけ慎重になってもなりすぎることはない、ということの良い例になっていると思う。自分も気をつけるようにしないと。


参考:世銀のワーキング・ペーパー http://www-wds.worldbank.org/servlet/WDSContentServer/WDSP/IB/2008/01/31/000158349_20080131153255/Rendered/PDF/wps4502.pdf