臓器移植の経済学 その3

さて、これらのモデルは、ただの机上の空論ではない。
Al Rothのところで見つけた、最近の記事へのリンクはこちら。

ttp://www.boston.com/news/nation/articles/2004/06/05/cross_donor_system_planned_for_regions_kidney?mode=PF (Boston Globe)

ttp://www.siam.org/siamnews/06-04/OR.htm (SIAM)


彼は、腎移植が必要なNew Englandの患者たちを自動的にマッチさせていくプログラムを開発している。もちろん、前に述べたアルゴリズムをそのまま適用するわけには行かない。10組まとめての移植は物理的に無理だ。しかし、テスト的に患者たちをマッチさせてみたところ、ペアのマッチングだけでもかなりの数に上るらしい。

"In a limited test of his system, Roth found eight matches from 45 potential donors who had previously been rejected." Boston Globe

45組中、8組というのは悪くない。しかも、患者のプールが広がるほどマッチングの可能性は広がっていくのだから、"Applied nationally, Roth believes the system could potentially save thousands of lives", というのも大げさな話ではない。


また、血液型やHLA型の実際の分布を元に行ったシミュレーションでは、100組の患者・ドナーペアのうち、ペアのマッチングだけでも、73.5%がマッチする相手を見つけることが出来た。前のアルゴリズムを文字通り適用すると、その割合は90%近くまでいったという。


前に、間接的交換には倫理的な問題があるといった。*1それは、ドナーとペアでないO型の患者が、他の患者に比べて不利なことだ。O型の患者は、移植相手を見つけるのが難しいので、より間接的交換に頼りがちになる。すると、ドナーとペアでないO型の患者は、自分と競合するO型の患者が、どっと優先権つきでリストに入ってくることを目にすることになる。それに加えて、O型の腎臓は一番移植しやすいため、O型のドナーの腎臓はマッチングの方に流れてしまいがちになり、間接的交換の結果としてリストの方に回ってくることはあまり期待できない。しかし上の数値を見てみると、これらの欠点は、リストから大幅な人数が抜けることで十分カバーされているような気がする。


ちなみに、日本の腎移植の状況を見てみると、まだ圧倒的に数が少ないようだ。どうやら、腎提供の数が少ないらしい。このようなラディカルなアイデアが応用出来るのは、どうやらまだまだ先のことのようだ。


(7/28追記:意味の通らないところを訂正しました)

*1:効率性ではなく、衡平性の問題。