Pay-Per-Click(ペイ・パー・クリック)広告とGSPオークション:Googleの集金マシーンについて


Googleの収入のほとんどは広告収入だ。だから、Googleの広告のシステムを理解することは、Googleを理解することだ、といってもいい。いったい、あれは普通の広告とどこが違うんだろう?なにか裏に複雑なシステムがあるのかと思っちゃう人もいるかもしれないけど、実は、その元になっているのは比較的シンプルなオークションだ。しかも、それは経済学でよく知られているセカンドプライスオークションの変種になっているのは、もうエコノミストの間では良く知られているネタの一つになっている。


まず、どうやって、今の形に落ち着いたか、ちょっとだけ歴史をたどってみよう。最初は、インターネットの広告も、普通のTV広告と同じだった。広告の買い手は、決まった回数だけ自分の製品の広告が表示される権利を買うのだ。広告を出す側は、広告の影響 - 広告によって喚起される需要 - を見積もって、自分がどれだけ払っていいか考える。この形式が劇的に変わったのは、1997年にOverture - 今はYahooの一部になっている - がPay Per Click(ペイ・パー・クリック)広告、あるいは検索連動型広告を世に出したときだ。誰でも知っているように、この方式では、広告主が特定のキーワードの検索画面に広告を出す権利を買い、かつ、広告主はその広告のリンクがクリックされたときだけ料金を支払う。これは、消費者のターゲッティングを圧倒的に容易にした。特定のキーワードを検索してくる人は特定のタイプの人たちだろうし、実際にリンクをクリックする人は、広告されている製品に真面目に興味がある人だろうから。つまり、このタイプの広告には、広告の影響をより正確に推定しやすくなるというご利益があるわけだ。*1もちろん、キーワードによって広告主の払う料金は変わってくる。人気のある特定のキーワードでのクリックあたりの価格は、多分あなたの想像を超えている。興味のある人は、下の「おまけ」を見てほしい。


さて、オークションが登場するのはここからだ。キーワードを検索したときに、右側に縦一列にいくつもの広告リンクが出てくるのはみんな知っていると思うけど、それぞれのリンクの権利はオンラインオークションによって、配分されている。昔々は、いわゆるファーストプライスオークションのようなメカニズムが使われていた。広告主達は、特定のキーワードについて、一クリック辺り(パー・クリック)の金額を入札(ビッド)する。そして、ビッドの一番高い人が一番上の広告リンク、二番目に高い人が上から二番目の広告リンク、というように広告リンクの権利が割り振られていく。*2彼らの広告リンクは、そのキーワードが検索されるたびに割り当てられた位置に表示され、リンクがクリックされるたびに彼らは自分のビッドを支払う。ただ、古典的なファーストプライスオークションと異なり、このオークションには終わりがない。入札金額はいつでもオンラインで変更でき、広告リンクとその順序は、瞬間瞬間のビッドに応じて流動的にどんどん変わっていく。


実はこの性質が、最初のメカニズムの問題だった。このゲームに参加している広告主達には、常に自分のビッドを下げるインセンティブがある。自分が広告の権利を失わない限り、ビッドを下げることで支払いを減らすことが出来るからだ。すると、価格がどんどん下がっていって、あるところでいきなり新しい広告主が参入してくる。するとまたそれに対抗するためにビッドを釣り上げる......そう、このシステムの下では、ビッドが余りにも不安定になってしまうのだ。またそれに加えて、このシステムでは広告を提供する側の利益が上がらなくなるのも、なんとなく見当がつくだろう。何が起こったかというと、広告主側は、つねにビッドを最低のレベルに保つことが出来るようにオークションを24時間チェックするプログラムを開発したのだ。


この問題点を2002年に解決したのが、GoogleAdWords Selectというソフトウェアだったわけだ。ここで初めて、セカンドプライスオークションのようなメカニズムが登場してくることになる。何が決定的に違ったかって?それぞれのキーワードについてパー・クリックの金額を入札するところと、ビッドの順番に応じて広告リンクの位置が割り振られるところは同じだ。しかし、最終的に払う金額が違ってくる。実はこのシステムでは、一番ビッドが高い人が、クリックあたり二番目の人のビッドを支払い、二番目の人は、クリックあたり三番目の人のビッドを支払う...というようになっている。このオークションは、広告が一つだけの場合にはちょうどセカンドプライスオークションになることが、分かるかな?だから、このシステムは、セカンドプライスオークションのある種の一般化(Generalized Second Price(GSP)オークション)になっている。*3


もちろんここで重要なのは、このメカ二ズムの下では、自分のビッドが直接自分の支払いに影響を与えないという点だ。自分のビッドが影響するのは、自分じゃなくて、一つ上にいる奴の支払いだからね。すると、さっきとは大分話が変わってくる。そして実際、このシステムが導入された後、広告の価格の変動は劇的に減った。大成功だ。


しかし、最終的にグーグルの収入を決めるのは広告価格の絶対的な水準であって、その安定性じゃない。じゃあ、このメカニズムの下で価格は一体どこに決まるのか?これが本当に重要な問題だ。実は、その問題を考えるにはちょっと標準的な経済学の助けがいる。でも、長くなったので、残りは「理論編」で。(続く)


おまけ:実際にどれぐらいPPCに金がかかるか、ここでちょっと調べてみよう。まず適当に人気のありそうなキーワードを選んでみる。例えばキーワードに"car insurance quotes"(自動車、保険、見積もり)といれてみよう。このキーワードでの広告リンクのクリックあたりの値段がどれぐらいか、ちょっと見当をつけてみてほしい。次に"willing to pay"に$100と入れてみよう。こうすると自分が$100をビッドしたときの平均的なクリックあたりのコストを返してくる(あと関連するキーワードごとのコストも教えてくれる)。クリックあたり$100なら間違いなく一番上のリンクが取れるので、出てくるクリックあたりのコストは、最近の最大のビッドの平均値だと考えていいだろう。さて、最後に"Get More Keywords"をクリックする。出てきたクリックあたりの値段は、予想とくらべてどうだっただろうか。ちなみに、今回は$44.09(!)。いえ、冗談ではなくて。


参考: "Internet Advertising and the Generalized Second-Price Auction: Selling Billions of Dollars Worth of Keywords," Edelman, Ostrovsky and Schwartz, American Economic Review 2007"

*1:Googleが導入しようとしているPay Per Action(ペイ・パー・アクション)広告は、この発展形ね。PPAだと、実際に消費者が購入したり登録したときだけ課金するので、広告の効果の評価のエラーがさらに少なくなる。

*2:これは、上にあるリンクほどクリックされる数が多くなるから。

*3:しかし、こういう経済理論の中の話が短期間の間に現実の市場の中で自生的に現れてくる、ってのは面白い。