男の子?女の子?

(追記:判りにくかったところを少し書き直しました。2/11)


この前の話題に少し関連した話を。欧米では男児も女児も平等に扱われるのに、アジア、ラテンアメリカ発展途上国などでは女児が差別されている、ということがよく言われる。例えば前にも話したように、Infanticideや出生前の超音波診断による選択的中絶、そして男女の産み分けは大きな問題になっている。*1ところが、このいわゆる「常識」が、実は怪しいらしい。もちろん、発展途上国に差別がないという話ではない。実は、欧米にも差別はあるんだよということらしいのだ。


Dahl and Morretti *2がやったのは、USセンサスのデータから、アメリカの両親の子供の性に関する選好を読み取ることだ。彼らはまず第一に、男児がいる夫婦と、女児がいる夫婦では、後者のほうが離婚する確率が平均して高いことを示した。統計的には、女児よりも男児のいる家庭の方が夫婦がうまくいくらしいのだ。これは、コンマ何パーセントなどという話ではなく、数パーセントの違いだ。偶然かと思う人もいるかもしれないが、USセンサスのデータの量を考えればそんなことはありえない。この違いは、地域、人種、教育レベルなどにかかわらず存在する。*3 またそれに加えて、男児のいる独身女性は、女児のいる独身女性より、結婚/再婚する確率が有意に高い。

さらに驚くのは−いったいどこからデータを取ってきたのかと思うのだがー、超音波診断によって胎児が女性だと判ったときに、その子供の両親が出産時に結婚している確率は有意に低くなるということだ。ちなみに、はじめて出産する女性(その場合超音波による性別診断は普通行わない)が結婚しているかどうかと、その第一子の性別の間に通常相関は見られないとのこと。つまり、出産前の赤ちゃんの性別そのものではなくて、超音波診断の結果が、カップルの相性と相関しているということなのだ。彼らの解釈では、これは結婚する前に子供が出来たカップルが子供が男の子だとすぐに結婚する(あるいは女の子だとなかなか結婚したがらない)ためでは、ということになるらしい。


もちろん、なんで男児のほうが結婚生活に「好ましい」影響を与えているかは、はっきりとはわからない。これは、ただ単に男児のほうが好まれているわけじゃなくて、何か他の理由があるのかもしれない。この証拠が示唆するのは、男児が女児よりも結婚生活の質を比較的に上げるか、あるいは男児が女児よりも離婚した後の生活のコストを上げるかということが起こっているということだけだ。前者の場合には、両親は男児のほうを「好んでいる」といってもいいかもしれない。*4後者の場合には、必ずしもそうはならない。


後者の説明としては、ロール・モデルに基づいた仮説を考えることができる。よく心理学者が言うように、男児の成長にとっては、父親がより不可欠なのかもしれない。これは、男児のいる場合の離婚のコストを比較的に増加させる。またあるいは、男児が結婚生活の質を上げるのではなく、そもそも男児を育てるほうが安上がりということがあるかもしれない。*5


さて、どの説明が正しいかということだが、いくつか、両親のジェンダーバイアス(男児への選好)が存在すると推測できる理由がある。彼らは、すでに子供のいる家庭で、もう一人子供を作る確率がどう子供たちの性別に依存するかを調べてみた。その結果わかったことは、女児ばかりいる家庭と、男児ばかりいる家庭では、前者のほうがもう一人子供を作る確率が高いということだ。*6 もし、ロール・モデル仮説により男児が離婚を防ぐならば、もう一人子供の生まれる確率はむしろ男児がいる場合に高くなるはず。また、女児を育てるのが高くつくなら、家が女の子だらけのときにもう一人子供を作る確率は低いはずだ。男児の育児コストが高いとすればこの結果は説明できるが、そうすると今度は前の結果との不整合が出てくる。


また、実際にサーベイをとってみると男の子を好む家庭のほうが多くなるということがあるらしい。*7しかもその原因はどうやら男親にあるという。女親は女児をわずかに好むのだが、男親の男児へのバイアスはそれを大きく上回っているので、カップルとしては男児へのバイアスが出てくるということなのだそうだ。*8 


これらの話をすべてまとめると、両親のジェンダーバイアスが存在する、という仮説はかなり説得力を増してくる。もちろん、その中身はよくわからないし、また異なる解釈の余地というのは常に残されているわけだが。


先に述べたサーベイによると、アメリカよりも男の子を好むのは、台湾を筆頭として、ハンガリーシンガポールなど。アメリカよりもこのバイアスが少ないのは、アイスランド、スペインを筆頭として、イギリス、フランス、インドなど。アイスランド、スペインなどでは、逆に女の子の方に大きなバイアスがかかっている。中国のデータは出ていない。さて、日本はどうなっているのだろうか?

*1:カナダ、UK、オーストラリアの一部などでは、性別を人為的に選択することは違法とされている。

*2:"The Demand for Sons: Evidence from Divorce, Fertility, and Shotgun Marriage", NBER WP10281, 2004.

*3:ただし、このエフェクトは減少するトレンドにあり、2000年にはほとんど消えてしまったらしい。

*4:ただし、これは男の子が好きという単なる好みの話ではなくて、何らかの技術的な要因によるのかもしれない。

*5:子供を引き取るのは通常母親のほうである。また、支払われる養育費は、子供の性別に依存しない。そのため、女児を育てるコストが比較的に高い場合、男性にとってはそのコストの差は結婚してるときにのみ効いてくる。(所得移転が不完全であるという仮定がいる?)そのため女児がいる男性は、男児がいる男性より、離婚へのインセンティブが強くなる。

*6:これに似た話で、ケニヤについての面白いデータがある。ケニヤでは、12%の結婚は一夫多妻制(Polygamy)に基づいているが、女児のいる女性の夫は、男児のいる女性の夫よりも、他に妻がいる確率が高いのだそうだ。

*7:これは、彼らの論文とは関係ない。そのようなサーベイがどれくらい信用できるかはちょっとわからない。

*8:Dahl and Morrettiは、離婚した男親が親権を得る確率が、子供が男の場合により高いことを示したが、それはこのようなサーベイの結果と整合的だ。