Capote (カポーティ)


“I was given the best part of my life and I know that.”


カポーティ

カポーティ

2005年に出た映画の中で、個人的には出色の出来だった。まあ、今年はそれほど映画を見ているわけでもないが。見た後、これでオスカーは決まりかなと思っていたら、他にもっと評判のいい映画がたくさんあるようで。というか、Brokeback Mountainを始めとして、オスカーの作品賞にノミネートされたどの映画も「カポーティ」より評判がよろしいらしい。そんなに今年は当たり年だったのだろうか。その中で見たことがあるのは、「Good Night, and Good Luck」だけだが、これよりは「カポーティ」のほうがだいぶ良かった。他の映画も見に行きたいのだが、暇が無い......


さて、「カポーティ」は、ジェラルド・クラークによる、トゥルーマンカポーティの伝記の一部に基づいている。カポーティの最後の(未刊でない)小説、「冷血」が誕生する過程を描いたものだ。ノンフィクション小説「冷血」は2つの死にはさまれている。それは、カンザスの一家の殺人事件に始まり、その殺人犯の死刑によって終わる。どちらも、「冷血」が誕生するためにそれぞれの仕方で不可欠だった。その過程でカポーティが体験する道徳的なディレンマは、彼の精神を侵食し、それが「冷血」を彼の最後の小説とすることになる。*1


しかし、なんと言っても、Phillip Seymour Hoffman(フィリップ・シーモア・ホフマン)の演技が素晴らしい。彼については、「ブギー・ナイツ」で、ポルノ製作会社のゲイのスタッフを演じていたことしか覚えていなかった。この映画でもゲイの役をこなしているんだが、もう彼がトゥルーマンカポーティ本人だとしか思えない。あの裏声と、しゃべり方。実際にトゥルーマンカポーティを映像で見たことはないのに、これがトゥルーマンカポーティだと思わせられてしまう説得力。*2 彼にとっては、文字通り一生に一度のはまり役だろう。ちなみに、最初に引用したのは、彼がゴールデン・グローブで主演男優賞を受賞したときのコメントである。


この映画を見た後、早速「In Cold Blood」を買った。実は、今まで日本語でカポーティを読んだ記憶が無い。しかし、彼の小説を名文家として知られるカポーティの流麗な英文を通して初体験できるのは、とても幸運なことなのかも知れない。*3

*1:と映画は解釈できるようになっているのだが、これはちょっと怪しい解釈に見える。

*2:もう少し上の世代だと、実際に見た人もいるだろうから、本当に比べられるんだろうけど。

*3:しかし、文学系は辞書を片手に読まなきゃならないので、辛い......