B型肝炎と性比の関係?


JPEの最新号を見ていたら、B型肝炎罹患率と性比が関係しているという話があった。*1先進国では男女の比率はおおよそ1だが、よく知られているように、アジアの発展途上国では男女の比率が1.05以上にも上る。*2この数字は、女児の(出生前あるいは出生後の)死亡率が人為的に高められていることによるのではないかとして、議論の的になっていた。この本来存在するはずの女性たちは"Missing Woman"と呼ばれている。その数は推定でなんと1億人にも上るという。*3


この論文が注目したのは、B型肝炎に感染している両親から生まれた子供は、男である場合が圧倒的に多いということだ。その場合の出生性比はおよそ1.5ぐらいと推定されている。で、男女比が高いアジアの国を見てみると、実際にB型肝炎への感染率が圧倒的に高いのだ。つまり、Missing Womanの一部は、B型肝炎によって説明できるらしい。どんぶり勘定だが、数にすると半分弱ほどのMissing Womanを説明できるということだ。


もちろん、国によって説明力はかなり違ってくる。例えば中国の場合はB型肝炎で75%も説明できるのに対して、インドの場合は20%しか説明できない。中国では、出生性比が非常に高く、時間がたつにつれて少しずつ下がっていく。これは男児のほうが自然の死亡率が高いためだろう。出生時の性比の高さが最終的な性比の高さを決めているこのパターンは、B型肝炎理論と整合的だ。一方でインドでは、出生性比はノーマルな値より少し高いのみだが、時間が経つにつれてそれが上昇していくため、結果的に高い性比に落ち着く。これはB型肝炎理論と整合的ではなく、むしろ生まれた後のジェンダーバイアスが、女児の生存率に影響を与えていると考えられる。


しかし、何でこれが経済学の雑誌に載るのかねえ。これからマッチングの入ったモデルを使うときには、B型肝炎の感染率をパラメーターとして入れなきゃいけなくなるとか...

*1:"Hepatitis B and the case of the missing woman"、Emily Oster JPE 2005

*2:先進国でも出生時の性比は1よりやや高い。ただ後にも述べているように男児の死亡率のほうが高いため、時間が経つとほぼ1に落ち着く。

*3:アマルティヤ・センの"More than 100 Million Women Are Missing," New York Rev. Books 1990 が有名。