美人投票で相場に勝つ

金融市場の例えとして、美人投票の話(ケインズ)がよく使われる。何人もの女性の中から美人をひとり選べ、ただし、平均して最も選ばれた人を選ぶべし、というあれだ。このゲームに勝つためには、自分が美人だと思う人に投票するのじゃなくて、他の人が投票する人に投票しなくてはいけない。だから、他の人が誰に投票するのか予想しなくちゃいけない。しかしもうちょっと考えてみると、事態はより複雑で、他の人も同じように考えるとすれば、他の人の、「他の人の投票に関する予想」を予想しなくてはならない。もちろんそうすると、次には他の人の、「他の人の、「他の人の投票に関する予想」に関する予想」の予想が必要で...と泥沼にはまる。この結果、どういうことがおきると考えられるか?例えば、すべての人が同じ女性を選ぶという極端な状況を仮に考えてみると、上の予想の連鎖を一応すべて現実と整合的にすることができる。もちろん、ポイントはこの女性が実際美人でなくても構わないことにある。これが、金融市場の動きがファンダメンタルから外れることのアナロジーとして美人投票の話がしばしば使われる理由だ。


ここでは、ちょっとこの話をマーケットの参加者への合理性と絡めて見る。実際に彼らは、上で書いているような複雑な先読みをするものだろうか?そんな合理的なトレーダーばかりいるはずがないというのが普通の実感だろう。実際金融理論では、しばしば賢いトレーダーとナイーブなトレーダが共存するモデルを考えることがある。*1しかし、上の美人投票の例は、例えすべての人が合理的であったとしてもバブルが起こるということであって、少しナイーブな人が入ってきてもあまり話の肝は変わらない。例えば、ある人は1段階目まで、ある人は3段階目まで予想をするというように、人によって予想の深さが変わるとしても*2、皆が同じ女性を選ぶというのは整合的な結果になっている。*3これだと、人々が合理的かどうかがどれだけマーケットに影響を与えるかがいまいちわからない。


もう一ひねりできないか。例えば少し違うヴァージョンの美人投票(QJE、2004、Camerer,Ho,Chong)を考える。ルールは簡単で、0から100までの数字を同時に選んで、平均の2/3に最も近い人が、決まった額の賞金をもらえるとする。まず、あなたが思慮深ければ68以上を選ぶことはない。で、次にあなたが他の人もそこまでは合理的だと考えるなら、46以上を選ぶ理由もなくなる...... 以下同様....。 という風に突き詰めていくと、もしあなたが合理的で、かつすべての人が合理的であることを知っていて、かつ、すべての人が「すべての人が合理的であることを知っている」ことを知っていて......という場合は、1あるいは0が唯一残されたチョイスになる。もちろん実際にこのゲームをやらせてみるとそうはならない。大体平均して20か30のあたりに落ち着く。というわけで、実際はゲームのプレーヤーは上の意味で合理的ではないわけだが、では、はたして彼らはどれだけ「非合理的」なのか?


実はうまいことに、このゲームでは人々の行動が先読み度に応じて変わるので、それを使って、人々の先読み度を推定することができるのだ。こんなモデルを考える。0先読み、1先読み、2先読み、...n先読み...というタイプのプレーヤーがいると考える。これらのタイプはポアソン分布に従うとしよう。「0先読み」というのはナイーブなタイプで、ただ単に数字をランダムに選ぶタイプ。「1先読み」は他の人はすべて「0先読み」と考えて行動する。(だから、100/3のあたりを選ぶ)。「2先読み」の人は、すべての人が「1先読み」か「0先読み」と考えて行動する......以下略。*4こうしてやると、モデルが自動的に選ばれる数の分布を作り出してくれる。後はこれが実際のデータにフィットするように、ポアソン分布のパラメーターを選ぶだけ(一次のモーメント(平均)をマッチさせる)。


推定された分布はどんな感じか?どうやら、「2先読み」以上の人はあまりいないようだ。先読み度が抜きん出て深かったのは、実際のトレーダー、CalTechの学生、ゲーム理論家など。他にはNYtimesなどのメジャーな新聞の読者などもそこそこ。大金持ちの先読み度が異様にすごいという結果もあったが、これはデータが少ないこともあって、よく分からない。*5

*1:マクロでもたまにそういうモデルがあるらしい。

*2:ここでは「合理的=無限回の予想」と考える。

*3:0段階の人(ただ単に自分が美人だと思う人に投票する人)がいないと仮定して。

*4:ここで、「1先読み」の「0先読み」の人の比率を決めるためには、アドホックといわれても、何か仮定がいる。Camerer達は、それは元のポアソン分布における2つのタイプの比率に等しいと仮定している。つまり、元のポアソン分布を「1先読み」の「0先読み」ところだけスケールアップしたような感じ。

*5:大金持ちのサンプルなんてよく集めたと思う。