経済学のモデルが現実的であるとはどういうことか?

"...a good model in game theory has to be realistic in the sense that it provivdes a perception of real life social phenomena...These (relevant factors) need not necessarily represent the physical rule of the world." A. Rubinstein 1991


最近目にした論文にだいたいこんな感じのことが書いてあった:経済学者はしばしば数学的に便利だから無限の数の消費者の存在するモデルを考えるが、より現実的なモデルは有限の数の消費者が存在するモデルである。前者のようなモデルは、消費者の人数が十分大きいときに後者のモデルの近似として考えられる限りにおいて有用である、と。


世界には有限の数の人間しかいないことは小学生でも知っている。その意味で有限の消費者のモデルは無限の消費者のモデルより現実的である。無限のモデルは有限のモデルの近似であるという考えも、物理でいえばたとえば流体力学などの例を考えればしっくりくるだろう。


しかし、その論文はこう続ける。経済には有限の数のアクターしか存在しないので、一人一人の消費者の行動は市場価格にインパクトを与える。で、著者たちは、一人一人の消費者が自分たちが市場価格に与える影響を正確に予測して意思決定する、と仮定するのだ(しかもこの仮定は論文の結論に決定的に影響を与えている!)。この仮定はきつい。*1このような個人に超人的な計算/予測能力を要求する仮定をするぐらいなら、無限の消費者がいて(だから)消費者は自分の行動が市場価格に影響を与えないと信じているモデルのほうがまだましなのだ*2


ここには少なくとも二つの教訓がある。一つは、ある現実的な仮定を持ち込んだときに同時に非現実的な仮定を持ち込む可能性があること。そしてより重要なのは、現実を物理的に近似するだけではよい経済のモデルにならないということ。より「現実的な」モデルは、ひとの認知能力や信念(belief)なども近似しているモデルなのである。

*1:価格に大きなインパクトを与えることのできるアクター、たとえば企業、あるいは最近の例では潤沢な資金を動かせるトレーダーなどはこの限りではない。

*2:有限の消費者がいて、一個人に価格は動かせないと信じられているモデルにすればいい気もするが。