モラル・ハザード


ある概念を説明するのに、具体的な例をあげて説明するより抽象的に説明したほうがわかりやすいことがある。例えばモラル・ハザードとかはそのいい例だろう。


これが正しいという定義は無いと思うが、モラル・ハザードの意味はだいたいこんなところだ。

(1)ある個人Aの行動が、他の個人B(あるいは集団)に影響を与える。
(1)個人A(エージェント)と個人(or組織)B(プリンシパル)が特定の経済的な関係を結ぶとき、個人Aの行動が個人Bの利益に影響を与える。
(2)Aの行動は(契約等により)直接法的に拘束することが出来ない。Aが自分の効用を最大化する行動を選ぶと、Bに悪影響があり社会的に非効率的な結果が起きる。

結果が非効率的になるというのは、もしBがお金を払ってAの行動を変えることができるならAもBもよりハッピーになることができるというくらいの意味である。なお、行動が拘束できないというのは、そもそも行動を観察できない(unobservability)とか、あるいは観察可能だが契約できない(unverifiability)などの場合を考えている。


もともとはモラルハザード保険業界からきた言葉で、保険で被保険者のリスクが軽減されると被保険者はリスクの高い行動をとるようになるという話だ。しかし、語感のせいか、このような例で説明すると解釈がどんどんずれていってしまう。火災保険をかけると火事を避けるインセンティブが減るというのは正しい応用だが、それが火災保険をかけて家に火をつけるということになるとすこし怪しくなって、最終的にはモラル・ハザード=道徳的に正しくない行い、というように考えてしまう。自分の疾病リスクを自分で選ぶことは、別にそれほど非道徳的ではないのにね。