リクルーティング


助教授のリクルーティングの時期もそろそろ終わり。つい先日には、うちに来たキャンディデイトを招いてディナーパーティーがあった。今年は理論家では公理的意思決定理論をやってるやつが多くて、彼もその一人。「どう、仕事取れそう?」とか聞いてみると、アメリカのすべてのトップの大学から招待されていて、もうオファーもでてるんだとか。


(主観的)期待効用理論ってのがある。50%の確率で$1をもらえて、50%の確率で$2をもらえるとしたら、その期待効用は0.5u(1)+0.5u(2)で表される。uは効用関数。より一般的には、

 \int u(f(x)) p(x) dx

という感じ(p(x)はxの確率、fはギャンブル:f(x)はxが起こったときの賞金)。これはどの教科書にものっている基本事項。


さて、このタイプの効用関数はいろいろと批判されているが、一つ有名なのがいわゆるエルスベルグパラドックスというやつ。

エルスベルグパラドックス
コインをほうり投げて、表なら$1もらう、裏なら何もなし、というギャンブルを考える。これとは別に、赤と黒のボールが入った壷から一つボールを引いて、その色を当てたら$1もらうというギャンブルを考える。普通の人は、赤あるいは黒にかけるギャンブルより最初のギャンブルを好む傾向がある。

このパラドックスは、ギャンブルに関する選好(好み)が上のような形の期待効用で表現されないことを示している。赤と黒の主観的な「起こりやすさ」に確率を割り当てられないからだ。もしも、赤のボールが黒のボールより多いと思っていれば、赤のボールに$1かけるギャンブルを最も好むはずだからである。この例は、確率で表されるようなリスクの枠に当てはまらない、確率で表されない不確実性(Uncertainty)が存在することを示している。


このような状況を表現する選好のひとつが、つぎのようなタイプ。

 \min_{p}\int u(f(x)) p(x) dx

上の例でいうと、赤にかけると赤の主観確率が低くなって、黒にかけると黒の主観確率が低くなるような感じだ。つまり、pに関する不確実性がある場合には、(あたかも)自分にとって最悪のpが選ばれると想定している感じ。


そしてこの選好にちょっと手を加えたのが、マクロの人が使っているという次のような選好。

 \min_{p}\int u(f(x)) p(x) dx + \theta D(p||q)

ここで、 D(p||q)はカルバック・ライブラー情報量で、pのqからの距離を表している。この値は常に正で、pがqから離れるほど上がり、p=qのときのみ0になる。前と同じようにpに関して最小化しているが、qから離れていくとコストがかかるのでpは最悪のところまで行かない。qは先見的に与えられているある種の基準値だ。 \theta \inftyに近づくにつれて、この選好は通常の期待効用*1 q(x) dx]))に近づいていく。


さて、なぜ長々と選好の話をしているかというと、これでようやく彼の仕事が説明できるからだが、彼は上の選好を公理的に特徴づけたということだ。*2しかもその公理が(意外なことに)かなり自然なもので、上の選好は、ある既知の二つのクラスの選好の共通部分にきれいに対応しているらしい。

*1:[tex: \int u(f(x

*2:正確には、特徴づけがされたのはアンスコム・オーマンのドメイン。上ではサベージ風に書いているが、サベージのドメインだと、これはよりリスク回避的な通常の期待効用表現に一致してしまう。