昼食会


アーツ・アンド・サイエンスのディーンから昼食会に招待されたので、物珍しさに行ってみた。どうやらディーンは、新しく着任した教員を数人ずつ招いて、毎週この手の昼食会を行っているらしい。今回招待されたのは、カルチュラル・スタディー/エスノグラフィック・スタディー系の人、政治学、心理学、それにマスコミ学の人と、多彩な顔ぶれ。ディーンは、こちらの名前とか家族構成とか趣味とか全部きちんと覚えていて、一人一人に声をかけてくる。この細かい気配りが、ディーンのディーンたるゆえんだろうか。多分各ファカルティーの情報をファイルに整理していて、こういう機会があるごとに、それをチェックするのだろう。


しかしここまで、雑多な顔ぶれになると、共通の話題を探すのもそれほど簡単ではない。とくに初対面のときにはそうだ。自然と話はミネソタの天気へ移る。いやほんと、寒いわ、とか。

「ブラック・アイスって知ってる?」

何かというと、自動車の排気ガスなどが急速に冷やされると、道路上に薄くて見えない氷の膜が出来るのだそうだ。これが原因で、車がスリップしたりすることがあるらしい。東海岸では聞いたことがなかったから、さすがミネソタだわ。7〜8年前には最高気温がマイナス18度という日があったということ。もちろん摂氏ではない、華氏である。だから摂氏にすると、ふーん、マイナス28度ね、っておい。

実はそこに集まった人の中にはロサンジェルスにいた人が結構いて、「ロスだとこういうときに話すのは、渋滞の事だよねー」ということで意見が一致。どこの地域にも、毒にも薬にもならない世間話のフォーカル・ポイントというものがあるんだね。ロスなら渋滞だし、ミネソタなら寒さだし、ロンドンならじめじめと湿った空だし、ボストンならレッドソックスなわけだ(いや、知らないけど)。


そのうちアパートや家を買ったとかそういう話になり、そしてモーゲージうんぬんの話になって、すると当然サブプライム危機の話になる。で、皆さん一斉にこちらに注目。「景気どうなんのよ」という、暗黙の質問。はいはい。そして私は社会的アイデンティティとしての「経済学者」の役割を引き受け、大雑把な説明とコメントを加える。そのコメントが月並みで凡庸なものにならざるをえないことは、まあしょうがない。ただ、「経済学者」の意見のリライアビリティに過剰な期待をもたれたら、ちょっと困るかなとは思う。というか、むこうも社交辞令として聞いてみただけなんだろうが。