アウトサイダーはインサイダーと比べてどれだけ不利か?


またゴキブリみたいな話だけど、今度は人間。だいぶ前の伝聞(ただし本人からの)なので詳細は保障できない。


それが起こったのは、彼が株式市場を模した実験をしたときのことだ。彼は、某有名工科大学の学部生を相手に、翌日行われる市場模擬実験の説明をしていた。少数精鋭で有名で、日本の某T大の学生も霞んでしまうような学生が集まっている大学だ。説明の途中で、彼はランダムに生成したある株式のリターン(配当)の変動を、参考として学生に見せた。「アセットの各期ごとのリターンは、このような感じに時間を追って変化していきます....」


ここで、一日間を置いたのが悲劇(?)の始まりだった。結果的には、この実験は大失敗に終わることになる。彼のミスは、次の日乱数を発生させるときに同じシードを使ったことだ。この一日の間に、ある学生が、例として生成されたリターンから元のシードを割り出していたのである。


次の日、この学生は将来のリターンの流列を完全に知った上で実験に臨んだ。もとより、一応そういう準備をしていただけで、教授がまさか同じシードを使って乱数を発生させるとは思っていなかったに違いない。ところが実際実験が始まると、全てが完全に予想通りに変動するので、この学生は大儲けである。もちろん一人あたりの予算には限りがあったので、彼一人で設けられる額は限られていたが。


さて、この話もゴキブリの話と同じように、おちがある。この実験を仕切っていた彼はもちろん、ほかの学生たちも、将来のリターンを完全予見している学生が取引に加わっているということは、全く知らない。それにも関わらず、取引価格は、インサイダー(この学生)のみ知っているこの株式の将来のリターンおよび将来価格をすべての人が知っていると仮定したときに実現するであろう水準に、ものすごいスピードで収束したのである。


インサイダーの情報が、取引を通じて、瞬く間にほかの学生に伝播したのだろうか。(学生たちはインサイダーがいることに最後まで気づかないのにも関わらず、である)。ゴキブリは一部のロボットに影響されて間違った意思決定をしたが、学生達は一人のインサイダーに追従して正しい価格を見つけ出したわけだ。