肥満の友人を持つと、肥満になる?


友人・兄弟・私…肥満の連鎖 「抵抗感が薄れる」見方

その結果、肥満の友人がいる人は、肥満の友人がいない人に比べて57%も肥満になりやすいことがわかった。また兄弟姉妹が肥満だと40%、配偶者が肥満だと37%、肥満になりやすかった。

 食生活や生活習慣が似ると考えられる兄弟姉妹や配偶者の影響が、友人の影響より小さいことや、影響を与える人が必ずしも近くに住んでいなかったことなどから、チームは、親しい人が太っていることで肥満への抵抗感が薄れ、今回のような傾向が出たとみている。

友達に肥満がいるほど、肥満である確率が高いということらしい。じゃあ、痩せていたければ太った人と友達にならない方がいいのか?逆に、肉をつけたければ、痩せている人と友達にならない方がいいのか?もちろん、そんなことはない。相関と因果関係を混同しない、というのはデータを扱うときの「いろは」の「い」だ。因果関係があるように見えるのは、ただの見せかけかもしれないからだ。この記事はまだ良心的だが、そこらへんのことに気を使わない、あるいは意識的に読者を特定の解釈に誘導するような記事も巷には多い。だから、この手の話を見かけたときは、常に解釈に気をつける必要がある。


実際、この手の「ネットワーク・エフェクト」をどう解釈するかというのは、社会科学で常に問題になってきた。最近読んだManskiのモノグラフでは、このエフェクトを3つの要因に分類している。


1.内生的影響(Endogenous Effect)
2.背景的影響(Contextual Effect)
3.相関的影響(Correlated Effect)


ここで、肥満の話を使って、それぞれの概念を説明してみよう。

1は、自分の属するグループの肥満の人の数が、直接自分の肥満に与える影響のことだ。一方で、2と3はともに間接的な影響に対応している。*12は、自分の属するグループの平均的な特徴が個人の肥満度に与える影響を指す。例えば、男だけや女だけの集団より、男女が適度に混ざった集団のほうが異性の目を気にするので肥満度が抑えられる、とかいう仮説はこの範疇に入る。この場合、個人の肥満度がグループ内の男女比に影響されているわけだ。最後に、3は個人の特徴からくる影響だ。2に対比できる例を使えば、例えば男が女より太り気味ということがあれば、この範疇に入る話になる。この例では、グループの中の性別が偏りがちな場合、グループの中で肥満度があたかも相関しているように見えることに気をつけてほしい。


さて、前にも言ったように、この解釈の違いはとても重要だ。なぜなら、解釈によって、適切な処方箋やその効果が異なるからだ。


最初に出した「痩せていたければ太った人と友達にならない方がいい」という考えは、1と2の場合は正しい(かもしれない)が、3の場合は間違っている。例えばあるグループのメンバーが太っているのが、そのなかに特定の趣味を持っている人間が多いことによるならば、あなたがそのグループに入るかどうか自体はあなたの肥満度に全く影響しない。上の記事では、家族よりも友人の影響が強いことから、社会的影響(1か2)を強調しているようだが、この例から分かるように、友人からの影響がより顕著で、かつ社会的影響でない類の影響(3)を考え付くのは、そんなに難しいことではないのだ。だから、「痩せていたければ太った人と友達にならない方がいい」かどうかは、必ずしも明らかではない。


あるいは、肥満度を抑えるための政府による教育プログラムを考えてみよう。Manskiによれば、1の解釈を取るならば、一個人の肥満を改善することは、同じグループに属する他の人たちの肥満の改善につながる。すると、プログラムの効果には、直接的な効果だけではなく二次的効果もあることになる。このような乗数効果は2と3の場合には存在しない。*2


すると、このネットワーク・エフェクトのうちどれだけが1、2、あるいは3の要因によるか、という話が重要であることがわかるだろう。そこでこの本は、これらの3つの要因が特定(アイデンティファイ)出来るかという話に入っていくんだが、そこは数式がうっとうしいので、省略。後は下の本を読んでほしい。

Identification Problems in the Social Sciences

Identification Problems in the Social Sciences

*1:1と2は社会的影響(Social Effect)だが、3はそうではない、という分け方もできる。

*2:うるさいことを言えば、上の例でもそうだが、因果関係を完璧に証明することは出来ない。ある解釈のもとでは、こうなるという話が出来るだけだ。例えば、グループ内の肥満度の相関は1の影響からきているとしよう。さらに、個人は他の人の行動から情報を得て行動を決めると考える。つまり、周りが太っているのは太ることのコストが低いという情報を周りの人々が持っているからで、だから自分でも太ることにする、という感じだ。この場合、外性的なショック(例えば政策)によって一部の人の肥満度が下がったとしても、その変化は純粋に内生的な変化ほど情報を伝達しない。すると、推定された乗数効果は正しくないだろう。極端な場合、Manskiのいうような効果は全く観察されないかもしれない。