日本の桜、アメリカの桜


よく考えてみると、花見の季節に日本に帰るのは10年以上ぶりになるわけで、これはせっかくだから桜を見なきゃ損だと思い、3月の末に千鳥ヶ淵に行ってきた。そのときの写真が、これ。

まだこの時は七部咲きだったが、なかなか見事なものだった。平日の夕方なのに、ものすごい人出であったのもむべなるかな。


しかし、実はここの桜よりも印象的な桜をアメリカで見たことがある。それは、フィラデルフィアベルモント通り沿い(だった思う)の鬱蒼とした林の中にあった。それに気がついたのは、大学へ車で通勤する途中に、茂った緑の間から鮮やかなピンクがモザイクのように漏れ出てくるのを見つけたときだ。思わず車を止めて、緑を掻き分けて進んでいくと、すぐに公園のような、やや開けたところにでた。そこで、その桜は、僕を、待っていたのである。それは、頭をがんとやられたようなショックだった。こんな場所にこれほど美しい桜があるのが意外だったということもあるが、ただ単純に巨大な桜の質感に圧倒されたのだ。


桜はある程度秩序だって並んでおり、明らかに人工的に植えられたものだった。その一帯はもともとは公園か庭園として構想されたことをうかがわせたが、辺りは余り整備されておらず、今は草や木がぼうぼうとそこらじゅうに生い茂っていた。一部の桜は、もう、かなりの古木だった。これは、いつ植えられたものだろうか。


僕はしばらくそこに留まって、一時間ほど、お茶を飲みながら一人の「花見」をした。人の歩ける道は周りになく、僕の他には誰もいない。その一時間の間に見かけたのは、桜の写真を撮りにきた、一人の写真家だけ。辺りには何の建造物もなく、そこは普通の世界から隔絶したような雰囲気を漂わせている。そんな無人の林の中に、異様に美しい桜の群れがぼうっと浮かび上がっているのは、とても不思議な光景だった。


*そのときの写真をいくつか引っ張り出してきた。この写真は、後に戻って来たときに撮ったものなので、もう桜が散り始めている。しかし、それでも十分雰囲気は伝わるだろう。

 


追記: 要するに、僕が見たのは、この1926年に植えられた桜の一部だったのかな。