海外でアカデミックジョブを取ること−1。


アメリカにいる経済の大学院生にとっては、そろそろ就職活動の季節である。当時は無我夢中でどうやったものかよく覚えていないが、少しぐらいは役に立つことがあるかもしれないので、思い出すことなどをここに書いておく。なお、以下のことは経済学の大学院留学生欧米で職を得るための心構えみたいなものなので、一般の大学院生に通用するものとそうでないものが混じっているため注意。


さて、そもそも大学院でのアカデミック生活を成功させる秘訣は何だろうか。身も蓋もない答えは「よい論文を書くこと」だが、それは当然の前提でどうしようもないわけなので、ここではそれ以外のことを話す。まず最初に思い出さなくてはいけないのは、最終的に大学院生がほとんどの知的活動を共有するのは指導教官である、という事実である。欧米では一年生や二年生の間はコアな授業に没頭することになるので勘違いしがちだが、最終的には大学院は徒弟制が支配する場所なのである。自分で研究する段階に入ると、指導教官以外の教授達が一介の大学院生の研究を前もって十分理解している、ということは非常に稀だと思った方がいい。だから、自分の業績が知られるのは主に指導教官のネットワークを通してということになり、またこれが就職に当たって指導教官の推薦状が特に重要である理由の一つでもある。しょっちゅう顔をつき合わせて議論する相手になるのだし、推薦状を書いてくれる相手でもあるわけだから、指導教官との関係を良好に保つことは非常に大事なことなのだ。


そこで、「就職活動」の最初の、そして一番大事なステップは(ちょっと気が早すぎるが):


1. 「正しい」指導教官を選んで、良好な「関係」を維持する。


ということになる。


「関係」というと、年賀状やお歳暮を欠かさないことと勘違いする人がいるかもしれないが、この「関係」は、一般的な意味の人間関係ではない。*1例えどれほど気が合う生徒がいても、その人物が一定の知的生産物を生み出していないならば、僕は「彼/彼女は、これこれの職につくのは難しいだろう」というように推薦状に書くことになるだろう。ここでいう「関係」には、あくまで知的な関係が軸にある。自分の興味を理解してくれ、かつ建設的な議論ができるような、そういう相手を指導教官に選ばなくてはいけないし、自分も指導教官にとってそういう学生になるように努力しなくてはいけない。もちろんそのような相手は人によって違うので、学生によって「正しい」指導教官は異なってくる。*2


指導教官と知的に良い関係を築くというのは、もう少し具体的に言うとどういうことになるだろうか?私見だが、極端に言えば、


2.指導教官をぼこぼこにできるようになる


ということになると思う。もちろんぼこぼこというのは冗談なわけだが、控えめに言っても、自分が常に教わる側にいるというだけでは、ちょっと物足りない。少なくとも自分の論文のテーマについては、自分のほうが集中して研究しているわけだから、むしろ指導教官に教える立場になることがあってもおかしくないだろう。なんとか卒業するまでには、指導教官に教えることがあるような生徒になることを目指すといいだろう。*3,*4

まだ続きます......

*1:もちろん最低限のマナー(時間に遅れないetc.)を欠かしてはならないのは欧米でも同じ。

*2:普通指導教官に選ぶのは、より顔がきくテニュアつきの(准)教授だ。しかし、実は若いUntenuredの助教授の方が面倒見がよかったりする。そういう若い助教授を副指導教官の一人に選んでおくと、何かと便利である。新しいことをよく知っているし、年齢が近いので何かと話しやすいのだ。

*3:門外不出の拳法を伝えるときの、「もうお前に教えることは何もない。最後に、師匠のわしを倒してゆけ!」とかいう感じね。

*4:もちろん実際は、教授の人たちはやっぱりいろいろなことを知っているので、なかなか敵わない。だから、そううまくいかなくてもそれほど気にすることはない。普通は、教授と対等な関係に近づけるのは、最後の最後になってからの話だ。最初は、ちょっとした事からでいい。質問を受けたときに、指導教授が良く知らない適切な関連文献を挙げるとかね。あと、経験がものをいう人文科学の分野(歴史とか)では、教授と学生の差はより縮まりにくいかもしれない。