金持ちになれるかは、生まれできまる?


Nature vs Nurture(生まれと育ち)の関連話を一つ。マンキュー(Mankiw)のブログに、学歴や収入はどこまで生まれによるか、という話が出ていた。「生まれ」っていっても、裕福な家に生まれるとか、よい家庭環境で育つとか、そういう意味じゃない。純粋に遺伝的な影響のことね。後天的な影響は、通常「Nurture」の方に勘定される。例えば、早生まれが学歴に影響を与える、ってのは、恐らく学校のシステムの問題なので、Nurtureの方の話になる。そこで引用されている養子に関するSacerdoteの論文は話題になったこともあって知っていたんだけど、彼によると、最近のBjorklund, Jantti, and Solonの論文もそれと似たような結果を示しているらしい。


Sacerdoteの話ってのは、こんな話だ。


親の学歴は子供の学歴と相関している。しかし、これは遺伝が原因だか、環境が原因だか区別ができない。学力が遺伝で引き継がれたのかもしれないし、そうじゃなくて、学歴の高い家の親が教育熱心なのかもしれない。そこでまず思いつくのが、同じ家庭の養子と実子のパフォーマンスを比べることだ。例えば、もし親の学歴が子の学歴に影響するのが実子の場合だけなら、これは遺伝的な影響が強いんだなと推測できる。


しかし、ここで一つ問題にぶち当たる。両親が養子を選ぶとき、ある特定のタイプの養子を選んでしまうかもしれない。例えば、学歴の高い親が知的能力の低い子供を選びがちなら、養子に関しては、あたかも親の学歴の子供の学歴への影響が少ないかのように見えてしまう。*1たとえ子供の学歴は親の遺伝子と無関係だとしても、だ。理想的には、養子を学歴の高い親と低い親にランダムに割り振らなくてはならない(Random Assignment)。しかし、もちろんそんな実験が許されるわけない。経済学は、この手の問題にいつも四苦八苦しているのだ。


Sacerdoteがうまくやったのは、実際に子供がランダムに割り振られているデータを見つけてきたところだ。アメリカには、朝鮮戦争の後韓国で大量に生まれた孤児をアメリカの両親とマッチさせることから始まった、養子斡旋のプログラムがある。そのプログラムでは、原則として両親は養子を選べない。「First come, first serve」で割り当てられていくので、養子と両親の組み合わせはほぼランダムだと考えることができる。*2この特殊なデータを使って、彼は親から子への影響(学歴、収入、等々)が、実子と養子でどう違うかを推定してみた。*3


さて、その結果だけど、例えばこんな感じ。

(1) 実子養子に関わらず親の学歴は子の学歴に正の影響を与えるが、その影響は実子の方が大きい。実子の場合は、(母)親の学歴が1年増えると、子の学歴が平均して0.3年増えるが、養子の場合は、増加は0.01年未満に留まる。
(2) (母)親の収入は実子の収入に影響を与えるが、養子の収入にはほとんど影響しない。実子の場合、親の収入が$1上がると、子の収入が平均して$0.16上がる。


学歴と収入以外に親から子供への影響が実の子供に関して顕著なのは、身長、体重、肥満度など。一方、喫煙や飲酒の習慣は、親から子への影響が実子養子かにあまり依存しないとのこと。


追記:この結果を丸呑みしてはいけない。この研究の問題については、下のコメントを参照。

*1:経済よりも統計よりの人たちへのメモ:これは要するに独立変数と誤差項の相関。

*2:その証拠に、両親に関する様々なデータと、養子に引き取られる前の子供のデータは相関していない。

*3:推定する方程式は、例えば一番単純な例をとると、子供の学歴(年数)=b0+b1*生まれの親の学歴+b2*育ての親の学歴。生まれの親の学歴と育ての親の学歴が相関していないので、養子のデータから、生まれの親の学歴が分からないにもかかわらず、b2の普遍推定量が得られる。次に、実子の場合には生まれの親と育ての親が一致しているので、子の学歴を親の学歴に回帰することで、b1+b2の推定量が得られる。この二つの推定量から、b1:生まれの持つ重みを推し量ろうとしている。