「Never Let Me Go」by Kazuo Ishiguro

Never Let Me Go

Never Let Me Go

...Anyway, what I was doing was swaying about slowly in time to the song, holding an imaginary baby to my breast. In fact, to make it all the more embarassing, it was one of those times I'd grabbed a pillow to stand in for the baby, and I was doing this slow dance, my eyes closed, singing alone softly each time those lines came around again:

"Oh baby, baby, never let me go..."


2週間に渡る学会行脚が終わって、ようやくLAに帰ってきた。飛行機の中で読もうと思って携帯していった、Kazuo Ishiguroの「Never Let Me Go」、最初はとても話の展開がスローに感じたけど、どんどんと引き込まれ、あっというまに読み終わってしまった。


一風(というか大分)変わった、学園恋愛小説といったらいいのかな。幼馴染み三人組Ruth, Kathy, Tommyの間の微妙な関係、細かな心のあやが、二人がいなくなってしまった現在からKathyが回想していくという形をとって、抑制された筆致で丁寧にトレースされていく。心の襞の中の襞まで描くような心理模写は、天才的。極上質の「少女マンガ」に近い読後感がある。


ところで、何が一風変わっているかというと、設定が変わっているのだ。別に謎自体がそれほど重要なわけでもないので、ある程度明かしてしまうが、彼らを含めた「学生」たちは、ある医療目的のためにこの世に生を受けたのである。この設定は非常にSF的だけど、この小説のポイントはそこじゃなく、その設定を通じて主人公たちの感情・心理をビビッドに描き出ところにある。*1 ある程度あらすじを知って、ハードSFみたいなものを期待して読み始める人は、この繊細な世界に入り込むのに時間がかかるかもしれない。


僕が持っているのは、大写しの顔が表紙になっている、Vintage Internationalのペーパーバックだけど、これは失敗。上のペーパーバックの、小説の中の印象的な一場面を描いた表紙のほうが断然いい。最初の引用は、その場面からのもの。読み終えたあとに、この場面に戻ってくると、ぐっときてしまう。*2

*1:そういえば、「Eternal Sunshine and Spotless Mind」もそうだった。

*2:ちなみに、この「学生」たちは、生まれつき子供がもてないようになっている。しかしそれですら、彼らから奪われているものの一つに過ぎないんだけど。怖いのは、当人たちは生まれつきそのような環境で育ったので、それを普通のことだと思っていること(Kathyの一人称の語りがここで効いている)。ただ、表立って反抗することはなくても、別の世界・未来への淡い希望のようなものが、彼らの心に小波をたてる(ように見える)ときがある。これも、そんな場面の一つ。