Freakonomics/S.D.Levitt and S.J.Dubner  

Freakonomics: A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything

Freakonomics: A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything

 "People lie, numbers don't"


日本語の副題を、貴乃花八百長インセンティブについて」にしたら、売れるんじゃなかろうか? この本の中では、ジョン・ベイツ・クラーク メダル受賞者のレーヴィットが、中絶と犯罪の関係から相撲の八百長まで、データに基づいて語りまくっている。


先日貴乃花八百長発言がニュースになったこともあるので、ここではそれに関係した部分だけちょこっと紹介してみよう。*1,*2


八百長といっても色々な噂があるが、レーヴィットが取り上げたのは千秋楽における(だけではないが)八百長だ。力士にとって、勝ち越すか負け越すかには大きな差がある。勝ち越せば昇給するし、負け越せば降級することになるからだ。*3だから、7勝8敗と8勝7敗の差は、4勝11敗と5勝10敗の差よりもはるかに大きい。さて、そこで7勝7敗の力士と、4勝10敗の力士が、千秋楽で対戦したとしよう。この1勝の重みは、この二人の力士の間でかなり異なる。するとどういうことが起きるか。もちろん誰でも予想できるように、データを見ると7勝7敗の力士の勝率の方が「高すぎる」のである。


実はこれ、結構有名な話だ。この勝率の差が八百長の証拠だ、と言う人もいる。しかし、果たしてそうだろうか?ただ単に、「7勝7敗で瀬戸際だから、火事場の馬鹿力を出したんじゃないの?」と思う人もいるのではないか。これだけでは、証拠にならない。すると、どうしても力士達の証言が必要になる。そういえば、昔、板井が告発本を出していた(下参照)。しかし真相はいつもうやむやのまま持ち越される。どちらの側が何を言おうが、みんな"People lie"だからであり、どちらが正しいかは判断がつかないからである。*4


しかし、"numbers don't"である。(うまくデータを使えば、だが。)レーヴィットが注目したのは、そのような2力士が再戦したときに何が起こるか、ということだった。すると、面白いことがわかる。前回7勝7敗で勝った力士は、次に同じ力士と通常の試合で当たったとき、統計的に「負けすぎる」のである。*5ある特定の2力士の間の平均的な勝ち負けはデータを見ればすぐ分かるが、「前回7勝7敗で勝たせてもらった」時は、それよりも良く負けているということなのだ。この差は、「7勝7敗で瀬戸際だから、火事場の馬鹿力を出したんじゃないの?」では、説明できない。何が起こっているのか?要するに八百長=星の貸し借りである。「今回は俺に勝たせろ。次回は負けてやるから。」という訳だ。*6


ほかにもたくさん面白いネタがあるのだが、それはまあお楽しみということで。まあ、とりあえず必読。英語読めるなら、もう翻訳を待たなくていいから、今すぐAmazonで購入すること。以上。

大相撲の経済学 中盆―私が見続けた国技・大相撲の“深奥” 

*1:元論文は、"Winning isn't Everything: Corruption in Sumo Wrestling", AER, 2002

*2:実はこれが、前に言った「一つの問題」。

*3:大相撲の経済学/中島隆信も参照。

*4:ところで、相撲界の八百長を告発しようとした二人の力士が、インタビューの直前に2人とも同じ病気で同じ病院で死んだというエピソードが出てくるが、この話の日本語のソースはどこだろうか?本当だとしたら、そら恐ろしい話だ。

*5:線形確率モデルで勝率を様々な変数に回帰すると、「前回7勝7敗で勝たせてもらった」ダミーの係数が負になる。

*6:つまり星を買っているようなものだ。実際現金も少しは動いているのかもしれない。即座に次のような質問が浮かぶ。ではなぜ金で全てが片付かないのか?なぜわざわざ公の場で星で返さなくちゃならないのか?これは学生さんへのいい宿題になるかも。