生物と無生物の間


生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)


LAからミネアポリスに引越しすると日本の本が手にいれづらくなるなと思い、いくつか日本語の新書をまとめ買いしておいたが、この本はそのうちの一冊。といっても、べつに、LAにいた間に日本語の本をよく読んでいたわけでもない。ただ、いざ機会が奪われるとなると、それが惜しくなってくるものだ。これは、ほら、あれだ。アメリカから日本に帰る前に、アメリカを駆け足で旅行したりとか、アメリカに定住するようになって、東京タワーに上ったり築地市場に行ったりとか、そういう心理だ。


その本の中で、最初に読み終えたのがこの本。題名が「生物と無生物の間」というので、これはウイルスの話か何かなのかと思ったら、ウイルスの話は最初だけで、後は著者が好き勝手にエピソードを並べていっているという感じだ。大雑把な筋としては、分子生物学の発展から自分の研究へと話がつながっていくのだが(この時点でタイトルとの関連は既に不明瞭...)、寄り道が多いのでそのように感じられるのだろう。しかし、それぞれのエピソード自体が面白いことと、筆者の情熱と筆力のせいで(これぐらい経済学で書ける人はいるかな?)、読み物としてはなかなか面白くなっている。


中でも特に楽しめるのは、科学者のゴシップ話だ。野口英世が「やばい」やつだったとか、ロザリンド・フランクリンとワトソン&クリックの発見に関するエピソードとか、その手の話がてんこ盛りである。レフェリー制度に関するドロドロした下世話な話も、こういう風にあけすけに書いちゃってる本はあまり見かけないような気がする。


スタイルとしては、アメリカの科学啓蒙系の本に非常に近く(アメリカの本屋でGeneral Scienceとかの棚に置いてあるようなやつ)、非常に読みやすい。何がその手の本の特徴かと聞かれると困るのだが、恐らく、個人的なエピソードをふんだんに使うとか、新発見が「事件」のようにドラマタイズされるとか、そのあたりのことが関係しているような気がする。たとえば典型的なのは、マリスのPCRの発明に関するエピソードだろう(ただしこの部分はマリスの本からの引用)。ドライブしている最中にアイデアが閃き、思わずアクセルから足を離して、路肩に停止するところとかね。僕も、革新的なアイデアを思いついたときのために、何かエピソードを考えておこうかな。「スカイダイビングをして、パラシュートが開かないときに突然閃いた」とか、「毎朝のヨガを日課にしていたが、ある日逆立ちの最中に突然閃いた」、とか。どっかで聞いたことがあるような気もするが......