The Lady Tasting Tea: How Statistics Revolutionized Science in the Twentieth Century/D.Salsburg (統計学を拓いた異才たち)
The Lady Tasting Tea: How Statistics Revolutionized Science in the Twentieth Century
- 作者: David Salsburg
- 出版社/メーカー: Henry Holt & Co
- 発売日: 2002/05/01
- メディア: ペーパーバック
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- 作者: デイヴィッドサルツブルグ,David S. Salsburg,竹内惠行,熊谷悦生
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/03/20
- メディア: 単行本
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20世紀の統計の歴史をたどるとても読みやすい一冊。以外と、こういう本はなかったような気がする。統計学の聖地UCL(University of College London)から始まった流れが、いかに世界中を席巻していったか、その大きな流れが見えてくる。*1
印象深いのは、統計学は完全に応用に引っ張られてきたということ。*2ビール製造に使用される液体中のイースト菌の数をポアソン分布で近似したり、農薬の効果を測定するために実験計画法が生まれたりといった具合に、常に現実的な応用がバックグラウンドにある。出来上がったものを見ると美しく見えるかもしれないが、それらの理論の背後には、結構泥臭い地道な努力が積み上げられているのだ。*3
今ではもう考えられないかもしれないが、この本から浮かび上がってくる古いタイプの統計学者は、数学に関しては一流ではないタイプの人間である。むしろ彼らは、実務の中で現れてくる面白い問題に対応するのに考える前にまず手を動かして汗をかくようなタイプの人たちだった。例えばアメリカでは大恐慌の後、様々なデータ(特にパネルデータ)の整備が格段に進んだが*4、その中で重要な役割を果たしたのは、とてもスマートな、しかし学部の学位しかもっていないような若い人たちだった。彼らは実務の中で、試行錯誤しながら、それでも自分達でイニシアチヴをとって新しい分析手法を開発していったのである。
しかしこれがアメリカに統計学が広まるのに少しラグがあった原因かもしれない。20世紀前半のアメリカでは、プリンストンの高等研究所に体現されているような抽象数学の嵐が吹き荒れていた。抽象的であれば抽象的であるほど良いというその雰囲気の中では、統計学なんてまともな数学者のやることではないというふうに思われたとしても無理はない。*5恐らくこの傾向は、数理的な才能のある一流大学の学生達を、統計学から遠ざけただろう。実際アメリカで初めて統計学部が出来たのは、誰でも知っているような有名大学ではなかった。それは、アイオワ州立大学だ。イギリスから押し寄せた大きな波を最初にキャッチしたのは、アイオワや、ノースカロライナなどの中堅どころの大学だったのだ。
ところでまったく話は変わるが、やはりフィッシャーは凄い。その人が現れる前と後で全てが決定的に変わってしまうような人間がたまに現れるが、近代統計学においては、フィッシャーがまさにその人に他ならない。RandomizedBlockDesignを一つとってみても、今なら誰でも知っていることだが、これを最初に考えつくというのは、やはり神がかっているとしか言いようがない。似たようなことをやっていた人はいたかも知れないが、彼は初めて明確なヴィジョンをもって登場してきたのである。あるいは最尤推定量の一致性を示すに至っては、もう誰も彼に足を向けて寝ることは出来ない。統計学の歴史の中では、あのコルモゴロフですら(確率論ですが...)、フィッシャーに比べると刺身のつまにしかみえない。それほどこの本の中でのフィッシャーのインパクトは強い。しかも、フィッシャーの進化・遺伝理論にはまったく触れず、かつ著者はしばしばフィッシャーにきつい言葉を投げかけているにもかかわらず、だ。
さて、この本のタイトルは、次のようなエピソードからきている。ティーパーティーで、ある女性が、ミルクに紅茶をいれるのと紅茶にミルクをいれるのでは味が違うといったところ、フィッシャーの提案で、じゃあ実験してみようかということになった。この女性に見えないところで、ミルクに紅茶を、あるいは紅茶にミルクをいれ、それを一杯づつ合計10杯女性のところへ持っていき、ミルクと紅茶のどちらが先にいれられたかを答えてもらった。当時そこにいた人の話によると、この女性は10杯とも見事に当てたそうである。