紅夢 (Raise the Red Lantern)
- 出版社/メーカー: ジーダス
- 発売日: 1992/11/27
- メディア: VHS
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いや、情念どろどろ系で恐ろしい。大学に通っていたが、学費が足りなくて、金持ちの4番目の妾になった女性ソンリャン(コン・リー)の物語。*1妾たちは旦那様に寵愛されて男の子を生むことに血眼。それが一族の中での権力につながるからだ。相手を蹴落とすためには、いかなる手段をも選ばない。最初はいい友人になれるかと思った第二婦人も、裏でこっそり人形に針を刺してソンリャンに呪いをかけている。
彼女も最初はこのゲームに付き合おうとするが、たとえ贅沢ができても妾は妾であるわけだから、インテリである彼女には満足できるわけがない。彼女は屋敷の掟に逆らうかのように、わがままに振舞うようになっていくが、最後に自分はもう永遠に自由になれないことを知り、狂ってしまう。旦那様の絶対的な権力を象徴する事件が起きるのだ。
この最後の場面も含めて、旦那の印象は全くない。旦那の姿を追うときは、遠景であり、常にどこかあちらの方を向いてしゃべっている。旦那には特に魅力もなく、実際、正妻も妾たちも旦那本人には何の興味も持っていない。そこにある権力に興味があるだけだ。全く精細を欠く旦那に、何故強烈な個性を持つ妾たちが完全に服従しているのかが不思議なのだが、最後の場面で明らかになるように、このひ弱な男は権力、あるいは法そのものなのだ。旦那は人として描かれてはおらず、一つのシステムに過ぎない。
ソンリャンの閉塞感を表わすように、カメラは、この存在感のない旦那の支配する邸宅を一度も出ることがない。妾たちにとっては、あたかもこの邸宅より広い世界は存在しないものであるかのように。邸宅の中には、4人の后のための4つの館があるが、中国で東西南北の世界を象徴するこの4という数は、この邸宅が彼らの世界そのものであることを暗示している。この世界から脱出できる道は一つだけだ。それは、巨大な邸宅の最上部にある、かつて何人もの妾がそこに入ったまま出てこなかったという小部屋である。妾たちは、生きている限り、この邸宅を抜け出ることはできない。
最後に一つ。旦那様と夜をともにしている后の館には、夜の間こうこうと光る真っ赤なランタンがかけられている。それによって、彼女たちは自分が旦那様を独占しているということを誇示するわけだが、実際このような習慣が中国にあったのかどうか。この赤いランタンは明らかに権力の象徴に他ならない。実はこの映画には、毛沢東と文化大革命批判の意味が込められているのではないだろうか。