レーヴィットへの蜂の一刺し - 中絶犯罪相関理論は正しいか?
レーヴィットの恐らく最も有名な論文*1が、批判を浴びている。先週号のエコノミストによると、ボストン連銀のFoote and Goetzのワーキングペーパーの中で、元論文でのいくつかのミスが指摘されているらしい。
まず簡単にドナヒュー&レーヴィットの論文をまとめてみよう。90年代の初め、アメリカの凶悪犯罪は目に見えて激減した。何故か?犯罪学者や社会学者、そしてジャーナリストまでが様々な説明を試みた。ある人は景気のせいだといい、ある人は警察のテクノロジーの発達をその理由だと言う。あるいは、ブレイディ法*2の成果だったのだろうか?しかし、レーヴィットの仮説は、それまでに挙げられていたどの仮説とも違っていた。彼が言うには、中絶の合法化が、凶悪犯罪の減少につながったというのである。*3
つまり、こういうことだ。アメリカ全土で中絶が合法化されたのは、Roe v. Wadeにおける1973年の最高裁判決による。その結果、多くの子供たちが中絶された。*4これらの子供が生まれてくるはずであった家庭は、それ以外の家庭より、問題が多い家庭が多いだろうと予想することができる。そのため、この子供たちが将来に犯罪に関わっていた確率は比較的に高いと考えることができるだろう。もし生まれていれば、この子供たちは1990年のあたりには、ちょうど10代後半―凶悪犯罪に手を染め始める時期―になっているはずである。その彼らが生まれてこなかったから、それ以前に比べて犯罪が減ったというわけだ。
彼は、中絶の合法化が有意に凶悪犯罪の減少に貢献しており、かつそれが最も重要な要因であることを示したわけだが、それ以外にも、いくつかの傍証を提出している。例えば、中絶の数と、凶悪犯罪の数は逆相関している。*5そのほかにも、中絶が早めに合法化された五つの州では、凶悪犯罪の減少が早く始まっている, などなど。*6
さて、Foote and Goetzが指摘したことは二つある。ひとつは、元論文では州、年齢、年次の交互作用(interaction)を入れていると書いているのに、それが実はプログラムからすっかり抜けおちていたこと。もうひとつは、元論文が凶悪犯罪の比率ではなく絶対数を使っていること。言い換えると、人口のサイズをコントロールしていないということになる。これらのことを考慮に入れると、中絶は凶悪犯罪を有意に説明しなくなるという。
レーヴィットは、これらの指摘を認めたが、自分のブログで反論を試みている。*7 例えば、Foote and Goetzの批判は、レーヴィットの結果の一部にしか該当しないことや、より信頼できるデータを使うと、彼の理論により有利な結果が出やすくなることなど。どうやら、彼の結果を本当に覆すまでには行かないようだ。