フィッシュマンズ、そして「LONG SEASON」
- アーティスト: フィッシュマンズ,佐藤伸治
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1996/10/25
- メディア: CD
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いつのことだろう、物心ついたときには、もう日本の一般音楽への興味を失っていた。もちろん、一部にはお気に入りのアーティストがいたし、日本の古い民謡などには心を動かされることがあったが、それらはどちらかというと例外だった。だから、日本を去りアメリカに移住するときには、日本の歌謡曲が聴けなくなるということはどうでもよかったし、むしろ世界中の音楽の集積地としての東京を去ることのほうがより重大な問題だった。そして実際、アメリカに来た後には、日本の音楽シーンを追うことはほとんどなかった。
そんなある日に、日本から友達がくるというので、試しに、何か日本のCDを持ってきてくれと頼んでみた。確か、何かアンビエントなやつ、とかなんとか適当に頼んだと思う。彼は、いろいろな音楽を聴き込んでいる奴で、僕は彼のチョイスを信頼していたからだ。そして、彼の持ってきたCDの中の一枚が、フィッシュマンズ(Fishmans)の「LONG SEASON」だった。
ある種の音楽は、それを聴いた時の自分や、その時期のいろいろな出来事と、切り離すことができないことがある。「LONG SEASON」は、まさにそんな奇跡的な音楽だった。僕がアメリカに移住した最初の年、1996年の記憶には、この曲のイメージがしっかりと刻印されている。そこには、東海岸の街中の風景とは遠くかけ離れた、世田谷の路地があり、フィッシュマンズの連中が、夢のなかでそこら中をかけ回っている。僕は、決してホームシックになどはなっていなかった。ただ僕は、彼らが同時代のある日本の風景や気分をきちんとすくいとっており、そしてそれが彼らの圧倒的なオリジナリティの根源になっていることを直観し、なにやら安堵と驚きの混じったような感覚を持っていたような気がする。
「LONG SEASON」はライブが一番いい、という噂を聞き、僕はいつか必ず彼らのライブに行くことを心に決めていた。しかし、そんなある日、つまり6年前の今日、ボーカルの佐藤伸治が風邪でぽっくりと死んでしまった。そして、いつか「LONG SEASON」をライブで聴くという僕の計画も、そこでおじゃんになった。日本の音楽から離れることにまったく躊躇がなかった僕は、このとき初めて、日本にいなかったことを少し悔いたのだ。