伝染病とネットワーク

今年アメリカは、深刻なインフルエンザワクチン不足に悩まされている。きっかけは、アメリカにワクチンを唯一供給しているイギリスの2社(Chiron Corp,Aventis Pasteur)のうちの一つに施設の汚染が発見され、ワクチン製造が一時停止に追い込まれたことだ。この結果、必要とされていた約1億ショットのうち、およそ半分が手に入らないことになってしまった。最近のニュースによると数百万ショット分の追加供給がイギリスとドイツの会社からあったようだが、製造過程における技術的な事情もあり、この先更なる追加供給はあまり望めないだろう。

別に医学的な知識もあまりないので、技術的な面には深く立ち入れない。また、誰がこの事態に責任があるのか、というのもここでは脇においておく。個人的に面白かったのは、このワクチン不足のため、どうワクチンを分配するべきかという議論にスポットが当たったことだ。

NYtimesに一つ面白い記事があった。ワクチンを最も必要とする人は、老人や持病などのため体が弱い人及び子供だが、特に老人が最も被害を受けるため、より優先的に接種を受けるべきだと考えられていた。しかし、最近の研究(http://www.immunizationinfo.org/pressroom/newsbriefs_detail.cfv?id=10897)では、最も必要な人々に接種するよりも、伝染を促進する人々に接種したほうが最終的に被害が少ないのではないか、ということが言われているという。伝染を促進する人々とは、多くの他人と頻繁にかつ親密に接触する人々、つまり伝染のネットワークの中でハブになるような存在だ。それは誰か、そう、子供達である。子供達は子供達同士で病気を移しあい、それを家庭へと運んでいくビールスの効率的な運び屋になっているわけだ。ロシアでは刑務所が結核の伝染に一役買っているという話を聞いたことがあるが、それと似た話だ。

いくつか、この案には説得的なところがある。まずポイントは、子供達はただ多くの他人と接触するだけではなく、自分達同士でよく接触するということだ。つまり、ネットワークがそこで密になっている。これは、子供達をワクチンのターゲットにすることが、少なくとも二つの意味で(一接種あたりが守る接触の数が多いことに加えて、ローカルなレべルでの爆発的な伝染を集中的に防いでいるという意味で)効率的であることを示唆している。またそれに加えて、老人への直接の接種は、従来考えられていたより意外と効き目が薄いということが分かってきている。

ここでよく言われるのは、親の反対のため子供達へ接種を強制することが難しいので、この手の政策を実現するのは非常に困難であるということだ。しかし、もう一つこの案の優れているところは、全ての子供達へ接種しなくてもよいというところにある。ネットワーク効果を得るためには、あるクリティカルな数以上の子供達(あるいはその親)が接種されることに同意すれば十分なのだ。それだけで、子供達の間から始まる爆発的な伝染を抑えることができる。

最終的な問題は、過去にもそうであったように、ワクチンからの感染およびショック症状を起こした場合に、両親からの訴訟が起こることだろう。この可能性が、製薬会社に二の足を踏ませるかもしれない。

(1970年代から最近までの、日本でのインフルエンザによる死亡者数のデータは、どこで見つけられるのだろうか?情報歓迎します。)