現代倫理学入門 加藤尚武
- 作者: 加藤尚武
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/02/07
- メディア: 文庫
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しかし、研究者の性というか、自分のテリトリーに近いところでの議論を見ると、ところどころ気持ち悪い記述に躓いてしまう。例えば、アローの不可能性定理。第一の公理を、「個人の自由の尊重」って呼ぶのは、どうなんざんしょ。これは「自由の原則」であり、「選好の順位のつけ方には何の制限もない」ということらしいので、まあそれほど外れているとも思わないが。
しかしもっと困るのは、二番目の公理の「部分集合の独立性」。「......特定の二人を選ぶとバッハ>モーツァルトという集計結果が出たとする。その場合にあらゆる候補者を入れて全体を集計すると、この二人の順位が逆転することがない......」というのは明らかに言葉足らずでは(間違いとは呼ばないが)。一番大事な(論争的な)公理なのだから、これだけはもう少し厳密に書いてほしい。
このように、自分の知っているところで曖昧な記述が多いと、他の部分でも同じようなことが起こっているのではと、疑心暗鬼に駆られてしまう。