ジェンダーと競争

なぜ競争的な仕事には比較的女性が少ないのか? そのような職業はえてして賃金も高いので、これはジェンダー間の所得格差にも関係する重要な問題のはず。この原因としては、差別もあるだろうし、選好の問題もあるだろう。しかしここでは,それとは別の説を紹介したい。

Gneezy、Niederle、Rustichini(QJE,2003)が行ったのは次のような実験だ。6人の男女が一つの場所に集められて、ある試験を受ける。試験の問題は簡単なパズル(迷路)で、被験者達はその問題を時間の許す限り解き、結果に応じて報酬を受け取る。実験の主眼は、異なった報酬体系の下、あるいは異なった性別の組み合わせに応じて、被験者のパフォーマンスがどう変化するかを見ることにある。

第一の実験では、3人ずつの男女が集められ、それぞれの被験者は解いた問題の数に比例した報酬を受け取った(出来高制/piece-rate)。この実験では、男女の得点に優位な差が確認されなかった。

第二の実験では、同じように3人ずつの男女が集められたが、新しく競争の要素が導入された。この実験では、(出来高に応じた)報酬が一番多く解いた人にのみ与えられるようにされたのだ。さて、被験者達は、このルールにどのように反応しただろうか? 結果を見ると、女性のデータには、第一の実験とこの実験のあいだに有意な差は見られなかった。しかし、男性の平均得点は有意に上昇したのである。

なぜか?女性は競争が嫌いで、より協調的?どこかの通俗心理学本で聞いたような話だが、別にありえない話ではない。そこで、次の実験では、もう一ひねりして、女性だけを6人集めて同じように競争させてみた。ただ単に女性が協調的ならば、女性の点数はそのままにとどまるはず、という訳だ。結果は、そうではなかった。女性同士の間では苛烈な競争が観測されたのである。女性達の平均得点は、第一あるいは第二の実験に比べて、有意に上昇した。(ただし、第二の実験の男性には平均得点ではやや劣ったが。)男性についても同じような実験が行われたが、こちらの平均点は第二の実験の場合と余り変わらなかった。つまり結論としては、女性は異性のいる場合には余り競争しないが、同性のみの場合には積極的に競争を始めるということらしい。いくつかこの結果の説明は考えられるが、長くなるので、後は読者の想像に任せることにしよう。
 
少し話は脱線するが、著者達はこの実験をアメリカの最近のトレンドである女子高(!)設立をサポートする結果として解釈していた。(上の結果を信じれば、男性と女性を分けることで、男性の点数を下げないまま女性の点数を上げることができる!)。 アメリカが男子校と女子高だらけになる日も近いのか...



「注意: 実験の結果というのは追試されるまで確実ではないし、その解釈も決して一意ではなく、自由度があります。なので、この結果を都合よく自分の解釈を証明したものとして使うようなトンデモ君にはならないように!」